太田胃散
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スプーン通信

夏気払いと健康

小丸屋住井 住井啓子さん

小丸屋住井
住井啓子さん

小丸屋住井 住井啓子さん

Q1.小丸屋住井家の歴史を教えてください。

小丸屋という屋号で、団扇を始めたのが寛永元年の1624年です。これは口伝ですが、住井家は代々御所につとめ、家としては千年以上の歴史があると聞いています。当代で十代目になります。当時の帝から「京都、伏見の深草の真竹を使って、団扇づくりを差配せよ」と命を受けて作られたのが「深草うちわ」。代々芸事に造詣が深く、その後、明治時代なって京都五花街の芸妓、舞妓さんの名入れ「京丸うちわ」が、夏の風物詩として登場しました。

Q2.深草うちわのことを教えてください

「深草うちわ」が確立したのは、天正年間(1573〜1592年)の頃。江戸時代に入ると庶民にも広がり、丸亀のお殿さんが参勤交代の時、家来の方が、団扇づくりを修行されて持ち帰ったのが現在の丸亀うちわのルーツです。「元政型深草うちわ」は、住井家と伏見、深草にある瑞光寺の元政上人が歌仲間で、元政上人がお茶も嗜まれていたことから、形をなつめ型にしたらどうか、と350年前に考案されたもの。それまでは丸やふっくらした形が多かったのですが、こちらはシャープですっきりした形が特徴。扇部に元政上人のお寺にあった軸の直筆の歌を転写しています。昔は、京土産として、この歌の書かれた「元政型深草うちわ」が人気だったとか。現存するものが少なく、瑞光寺にお詣りに来られた東京の方が、代々家宝として守っている、と和尚様よりご連絡頂き、復元につながりました。

Q3.深草うちわはどのようにして作られますか?

3〜4年ものの真竹を使います。それを、6〜7等分に割り、一本の竹で節のところを境にして、節から下を持ち手に、上をさいて骨にします。糸かがりをして、持ち手が竹のように平形になるようにのみで削って、弓の部分を丁寧に竹に差し込みます。昔はノミで差し込む所も切り抜いていましたが、今はドリルで穴をあけ、竹を差します。これも時代の流れですね。そこまで手の込んだ仕事をする職人さんも少なくなってきました。一本の竹が繋がってできていますので、何年使っても壊れにくく、しっかりした風がくるのが特徴です。

Q4.その他に、どのような材料を使っていますか。

団扇の地紙は、魔を祓う力があって、昔から神事などにも良く使われてきた琵琶湖の葦を使っています。数十年前に、琵琶湖で水のフォーラムというのがありまして、葦が絶滅するかもしれないと聞きました。葦の群落を保全再生のために、刈られた葦を活用すると良いことを聞き、水への恩返しと思い、使っています。1本で10ℓの水が綺麗になるそうです。

Q5.うちわは、煽ぐとことからも縁起の良いものとして好まれていますね。

団扇自体は祓う、ということから魔除けの意味があります。昔は高貴な方が使うものでしたから、顔にかざしたり、口元を見せないようにしたり。風で気を祓う、運を追い上げるなどの意味も凝縮されています。昔から、京都では、夏になると玄関口に団扇が置いてあって、お客さんがお見えになると「よう来てくれはりました」と涼をとって頂き、優しく扇いで差し上げる事がもてなす事と習慣になっておりました。もてなすのと同時に、お客さんに良い気を届ける、という思いで祖母なども使っていたようです。

Q6.京の町家は坪庭と呼ばれる中庭を見ることがありますが、それは夏の暑さを凌ぐ知恵と聞いています。日常生活の中で、どのような工夫をされていますか?

岐阜の伝統団扇で、岐阜うちわというのがあります。長良川の水をちょっとつけて仰ぐと、涼しい風がくるそうです。涼をとる工夫ですが、京都だと打ち水ですね。お客様が来る前に、玄関前に打ち水をしておきますと、だいぶ気温が下がります。京都では朝晩、表を履いて水をまきます。小学生の頃、よく祖母に言われていた日課。そういう光景も、今は少なくなってしまいました。ちなみに岐阜団扇も住井家の四代前の親戚が始めたものです。

Q7.夏はどうしても冷たい物を食べがちで胃腸を壊してしまいますが、夏バテ予防などがありましたら是非教えてください。

夏によく食べるのは、冷奴と生姜など、さっぱりしたもの。逆に、うなぎなど高たんぱくなものも進んでいただきます。「小さい頃は、何でうなぎを食べるんやろ?」と、思っていたのですが、昔の知恵というのは良くできたものです。あとは睡眠。寝ることが一番ですね。去年は忙しくて、寝る時間も少なかったので、今年は体調を整えながら、まずは自分の体を正そうと思っています。睡眠不足の時は、体力をつけようとたくさんに食べてしまうのですが、胃がもたない。胃腸の調子が狂ってきます。そんな時は、太田胃散を使っています。(笑)昔からあるものなので、安心感もありますね。

Q8.ご多忙な住井社長は日々の健康管理にどのようなことをされていられますか?

ウオーキングなど、運動する時間はなかなかないですね。寝る前と起きた時に、少しだけストレッチするくらいです。5分くらい、自分で体を伸ばします。体や健康のためには、少し歩かないといけないのですが…。家と店の往復も、つい車に頼ってしまいます。本当に疲れた時は、家に整体の先生にきてもらい、調整してもらうことが多いですね。

Q9.団扇の上手な使いかたを教えてください。

涼をとるのはもちろんですが、団扇を使いながら仕事したり、お客さんとしゃべりながら、団扇でもてなしたり。ちょっとした気配りなど、表現を柔らかくするための小道具として使ってもらいたいですね。団扇を煽ぐしぐさは、とても日本人らしいと思います。日本文化の発信にもなります。綺麗な団扇の所作は、柔らかい雰囲気を醸し出して、心を伝えます。バタバタとせわしない感じではなく、柔らかく、優しく煽いでください。気持ちが穏やかだと、手にも現れます。良い気も届きます。

Q10.団扇を通じて読者の方に一言お願いします。

扇風機やクーラーの出現で、団扇を使うことが少なくなってきました。今だからこそ、環境や健康の面でも、昔から使われてきている団扇文化をもう一度見直す時期だと思っています。子供の頃昼寝の時、団扇で煽いだ風は、すっと柔らかく、起きたら爽やかです。扇風機やクーラーなど、人工的な風は、体がだるくなります。お子さんにはクーラーは弱めで、団扇で優しく煽いであげると良いと思います。寝るまでの少しの間でも、すっと心地よく眠りに入れます。忙しい日常の中のコミュニケーションにもなりますね。風と同時に、心も届く。小さい頃のそんな思い出は、忘れられない愛情の記憶になると思います。心の教育の小道具としても、ぜひ団扇を使ってみてください。

小丸屋住井 住井啓子さん


小丸屋住井 住井啓子さん


小丸屋住井 住井啓子さん

プロフィール

住井啓子 プロフィール

幼少より日本舞踊(坂東流)を習い、7歳で初舞台を踏む。舞踊経験を活かし、舞台小道具の製作、時代考証を行う。特に舞扇子のデザインに関しては好評を得ている。
2000年、舞台用小道具として深草うちはを復元。
2004年には「京遊団扇」の出版にあたり監修を務める。
復元以降、大学や寺院、その他の講演依頼を積極的にこなす。
京都の伝統文化を発信する拠点として2015年に「小丸屋サロン」をオープン。

小丸屋住井
京都市左京区岡崎円勝寺町91-54
075-771-2229
営業時間:10:00〜18:00(定休日:不定休)
http://komaruya.kyoto.jp/

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